コラム
福祉のまちづくり条例を踏まえたクリニック設計のポイント
◎福祉のまちづくり条例とは

「福祉のまちづくり条例」とは、高齢者や障害者などを含めたすべての人が、スムーズに利用できる施設や建物などを整備し、安全、安心、快適に暮らし、等しく社会参加できるまちづくりを目指す条例です。福祉のまちづくり条例は、都道府県や政令指定都市などが制定しており、条例の内容は自治体によって異なります。主に学校、クリニック、店舗、飲食店、道路・公園・公共交通施設などの都市施設について、整備基準を定めています。施設所有者などは、福祉のまちづくり条例で定められた整備基準に適合するような施設にする努力を求められています。整備例として、出入り口の配慮、車椅子が通行しやすい廊下、高齢者や障害者が利用しやすい階段やエレベーターの設置、トイレ設備のバリアフリー対応などがあげられます。クリニック設計の際も、福祉のまちづくり条例の整備基準を考慮する必要があります。
たとえば、東京都の福祉のまちづくり条例では、高齢者や障害者に対するさまざまなバリアを取り除くという「バリアフリー」の視点から、すべての人にとってより快適な環境とするため、はじめからあらゆる方法でバリアを生み出さないようにする「ユニバーサルデザイン」を基本理念とした福祉のまちづくり条例へと改正されました。ユニバーサルデザインとは、年齢、性別、国籍、個人の能力に関わらず、はじめからできるだけ多くの人が利用可能なように、利用者本位、人間本位の考え方に立って、快適な環境とするようデザインすることを指します。
福祉のまちづくり条例では、クリニック、診療所、助産所、施術所または薬局は「特定都市施設」として条例の対象となります。「特定都市施設」は新築・増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替えまたは用途変更の際に、福祉のまちづくり条例の整備基準への適合遵守義務があり、工事着手の30日前までに各区市町村の「福祉のまちづくり条例担当部署」への届出が必要です。また、東京都の福祉のまちづくり条例においては、クリニックを含む医療等施設は用途に供する部分の床面積に関わらず、届出の対象とされています。
さまざまな人が訪れるクリニックには、福祉のまちづくり条例だけでなく、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称:バリアフリー法)も適用されます。「高齢者、障害者等が利用しやすい建築物の整備に関する条例」(通称:建築物バリアフリー条例)の対象となる建築物を新築、増築、改築、用途変更しようとする際には、原則として建築基準法にもとづく確認申請や中間・完了検査時に審査を受け、都条例にもとづく順守基準と同等以上の措置が講じられることとなるため、福祉のまちづくり条例の届出は免除されます。この場合でも、「観覧席・客席」及び「公共的通路」の整備項目については、福祉のまちづくり条例の届出の対象となります。また、建築確認が不要な用途変更についても、福祉のまちづくり条例の届出の対象となります。また、福祉のまちづくり条例以外に、バリアフリー法にもとづき、建築物のバリアフリー整備に関する条例を定めている自治体もあります。まず、中心に建築物バリアフリー条例があり、その周りに福祉のまちづくり条例があるイメージです。
たとえば、東京都でクリニックを設立する場合、バリアフリー法令・条例において義務化対象となる整備項目については、福祉のまちづくり条例の届出が免除されます。福祉のまちづくり条例は、建築物バリアフリー条例に比べ、より広範に対象とする建築物の用途や規模を定めるとともに、「観覧席・客席」と「公共的通路」といった建築物バリアフリー条例にはない整備項目を設けています。ただし、区市町村が独自に福祉のまちづくり条例を制定するなど、東京都が定める整備基準と同等以上の措置を講ずることになるよう定めている場合は、東京都の福祉のまちづくり条例は適用除外となり、区市町村の福祉のまちづくり条例にしたがった整備を行うことになります。たとえば横浜市では、地方自治法にもとづく横浜市独自の条例である福祉のまちづくり条例とバリアフリー法の委任状例である建築物バリアフリー条例がありましたが、平成24年12月に改正が行われ、建築物バリアフリー条例を廃止し、福祉のまちづくり条例に一本化されました。クリニックを設立する際は、該当する地域の福祉のまちづくり条例を確認する必要があります。
クリニックや診療所などの医療等施設には、福祉のまちづくり条例以外にも医療法や建築基準法をはじめとするさまざまな法律が適用されます。クリニックに通う患者様はもちろん、そこで働く医師やスタッフといったすべての人を守るための基準であり、クリニック設計の際には福祉のまちづくり条例を含む、すべての基準をクリアする必要があります。
◎福祉のまちづくり条例に沿ったクリニック設計のポイント

クリニックの新築、増築、改築、大規模な修繕、模様替えの際には、福祉のまちづくり条例の整備基準の遵守が求められます。福祉のまちづくり条例にもとづく、クリニックや診療所などの医療等施設の具体的な整備基準して、以下のポイントをおさえておくことが大切です。
〇移動等円滑化経路等
移動等円滑化経路とはバリアフリー法で用いられている用語です。福祉のまちづくり条例においては高齢者や障害者を含めたすべての人が、クリニックの敷地に接する道路から、利用する部屋(利用居室)まで、段差なく移動しやすい幅の経路にする必要があります。また、クリニック内で利用する部屋から車椅子使用者用のトイレ、駐車場まで、いくつかの経路のうち必ず1箇所以上は移動等円滑化経路としなければならないよう、福祉のまちづくり条例で定められています。
〇出入り口
福祉のまちづくり条例によって、出入り口は高齢者や障害者を含めたすべての人が安全かつ円滑に利用できるようにすることが定められています。クリニックの玄関やメインエントランス、利用する部屋、車椅子使用者用のトイレ、駐車場へ通じる出入り口のうち、移動等円滑化経路等上にある出入り口は幅を85cm以上とします。移動等円滑化経路等以外の外へ通じる出入り口のうち1箇所以上は幅を100cm以上として、同様の整備が必要です。ドアを設置する場合には、福祉のまちづくり条例の基準にしたがって、安全装置つきの自動ドアや、車椅子の方が開け閉めしやすく通行しやすいものにします。また、ドアの前後には段差や階段を設けないようにします。
〇廊下
廊下はクリニック内をすべての人が安全かつ円滑に利用できるようにする、最も重要な部分のひとつです。福祉のまちづくり条例の基準にしたがって、床は滑りにくい素材を選び、段差を設ける場合にはつまずきにくい構造にしなければなりません。ひとつ以上の経路については、車椅子の方と歩行者がすれ違うことができ、車椅子が回転できるだけの幅が必要です。また、視覚障害者の利用に配慮して、階段とスロープに接する廊下の部分には、点状ブロック等を設置することが、福祉のまちづくり条例では定められています。
〇階段と踊り場
クリニック内に階段を設ける場合は、高齢者や杖を使われる方、視覚障害者などに配慮した構造にします。福祉のまちづくり条例には、床は滑りにくい素材を選び、段がある部分と踊り場に手すりを設ける、識別しやすくつまずきにくくする、点状ブロック等を設置するなどの整備基準があります。
〇エレベーターの設置
福祉のまちづくり条例では、床面積2,000㎡以上で2階建て以上のクリニックの場合、高齢者や杖を使われる方、車椅子の方や視覚障害者などに対応したエレベーターを1基以上の設置を義務付けています。エレベーターは、クリニックの出入り口に近くわかりやすい位置に設置する必要があります。また、エレベーターのかごと乗降ロビーは、車椅子の方や視覚障害者などに配慮した設計にする必要があります。出入り口の幅は80cm以上とし、かごの幅は140cm以上で奥行き135cm以上、乗降するロビーの広さは150cm以上などの基準が福祉のまちづくり条例では設けられています。他にも、車椅子の方などが利用しやすいエレベーターであることがわかるマークや、利用者の乗り降りを確認するための光電式装置の設置、制御装置のボタンは視覚障害者が利用しやすい押しボタン式のものを使用するなどの整備用件が、福祉のまちづくり条例には定められています。
〇トイレ設備のバリアフリー対応
クリニックのトイレは、車椅子の方、高齢者、妊婦や乳幼児を連れた方を含めたすべての人が使いやすい空間にする必要があります。福祉のまちづくり条例では、床は滑りにくい素材を選ぶこと、手すり、非常用呼び出しボタンの配置、オストメイト用設備、ベビーチェア、ベビーベッドを設けるなどの基準が定められています。出入り口の幅は85cm以上とし、トイレ内に十分なスペースが確保できるようにします。福祉のまちづくり条例では、床面積によりトイレ設備の設置基準が異なるため、クリニック設計の際には、設備の組み合わせの確認が必要です。
〇標識や案内設備
福祉のまちづくり条例では、標識や案内設備の設置についても決まりがあります。クリニックを利用するすべての人がスムーズに目的の場所へ到達できるよう、案内設備をわかりやすい位置に設置します。設置にあたっては、高齢者や障害者などが見やすく、かつ視覚障害者の通行の妨げにならないよう、設置位置や高さ等についての配慮が必要です。
◎クリニックの移転、新装を行った当社の施工事例
クリニックは、患者様にとって安心できる場所であり、スタッフにとって働きやすい環境であることが大切です。移転や新装の際には、診療内容や地域の雰囲気に合わせたデザイン、快適な導線計画、清潔感のある空間づくりがポイントになります。
〇東京品川区クリニック

100坪超のクリニックの移転、新装となる本案件にて、当社は意匠設計デザインから参画しました。健診センターと内科や皮膚科等の診療を併設するため、患者様の導線だけではなくスタッフの皆様の導線についても考慮しました。陽の光が映えるようなシンプルで清潔感のある空間にまとめました。木目と白を基調として内装があたたかい雰囲気を作りだし、患者様にも安心感が伝わるデザインとなっています。200㎡を超えるクリニックになるため、オストメイト対応の患者様用トイレや使い勝手のよい水回り設備を整えました。
◎まとめ
福祉のまちづくり条例とは、高齢者や障害者を含めたすべての人が、できるだけ不自由なく利用できる施設や環境を整備することを目的とする条例です。クリニックには福祉のまちづくり条例に沿った、患者様が安全で安心して訪れることができる内装設計が求められます。REMは、クリニックや診療所に関するさまざまな施工実績があり、福祉のまちづくり条例などの各条例や法律に対応した内装設計や施工、トータルプロデュースが可能です。ご興味のある方はお気軽にご相談ください。
