コラム
リノベーション工事でアスベストが検出されたときに必要な対応
◎アスベストが含まれる可能性がある建物

アスベスト(石綿)とは、非常に細やかな繊維状の鉱物です。アスベストがもつ材質の特徴には、熱や摩擦に対する強さ、薬品や腐食への耐性があるため、建築建材との相性がよく、アスベストが含まれた建材が多く製造されていました。たとえば、断熱材や結露防止材、耐火皮膜のひとつ、吹き付け材に含まれているケースがあります。建築の世界では重宝されていたアスベストですが、1975年に改正された「特定化学物質等障害予防規則」を皮切りに、徐々に使用が制限されました。極めて細い繊維状のアスベストを人間が吸い込むと、将来的に重篤な病気を引き起こすと判明したためです。1995年には「労働安全衛生法施行令」の改正で、さらにアスベストの利用が制限され、2006年に行われた同政令の改正よって、アスベストの使用が完全に禁止されています。アスベストの使用は2006年に完全禁止されましたが、2006年の政令改正以前の建物は、アスベストの使用量に差があっても、アスベストが含まれた建材を使用している可能性が考えられます。
建物を造る建材に使われたアスベストは、危険度の度合いによって、3つのレベルに分けられています。危険性が非常に高いレベル1は、飛び散る程度を意味する発じん性が著しく高く、その場にあるだけでも人体を脅かすとみなされるため危険です。代表的な建材は吹き付け材で容易く飛び散りやすい建材が該当します。アスベストの危険性がレベル2のケースは、発じん性が高いと定義されます。アスベストが含まれた吹き付け材の次に飛散リスクのある、断熱材や保温材などが当てはまる建材です。アスベストの発じん性が比較的低いとされるレベル3には、仕上げ材のような建材が含まれます。
◎リノベーション工事でアスベストが検出されたときに必要な作業

〇発じん性が著しく高いレベル1のケース
吹き付け材のような飛散性が極めて高く危険なレベル1のアスベストが残存する建物を解体し、リノベーションするときは、建材そのものを除去する作業を行います。飛び散りやすく吸い込みやすいレベルにカテゴリされるアスベストは、健康被害のリスクが高く、解体工事を伴うリノベーションでは、飛散しないよう建材まるごとの除去が欠かせません。レベル1のアスベストを取り除く作業中は、高濃度のアスベストの粉末に取り囲まれるので、作業員は防護策を講じ、厳重に飛散防止対策をとったうえで、除去作業を実施します。解体がないリノベーション工事の場合は、除去しない選択も可能です。薬剤でアスベストを固める封じ込め工法や、アスベストを板で囲い飛散を防ぐ囲い込み工法を用いて、アスベスト対策を行います。
〇発じん性が高いレベル2のケース
レベル1と比較すると、レベル2のアスベストの発じん性は低いものの、レベル1と同様にリノベーション時は、除去や封じ込め工法、囲い込み工法が選択されます。断熱材や保温材のようなシート状の建材が代表的で飛び散りにくい一方、アスベストが軽量のため周囲に舞い上がるリスクは否定できません。除去作業を進める際は、アスベストが飛び散り作業員や周囲の環境に影響を与えないよう、レベル1と同程度の厳重な防護対策が求められます。取り除く建材に衝撃を与えて、アスベストが飛散する要因を作らない慎重な作業が重要です。アスベストを含んだシートが巻き付けられた配管や柱だけを撤去できる点は、レベル1に分類される直接建物に噴射される吹き付け材とは異なるポイントです。
〇発じん性が比較的低いレベル3のケース
飛び散る危険性がレベル1と2よりも比較的低いとされるレベル3のアスベストは、手作業で除去ができます。レベル3に分類されるアスベストが含まれる建材は、建築物の外壁材や内装材に使われる破損しにくい成形板が該当するため、発じんするリスクが低めだからです。リノベーション工事を行うときに、厳しいアスベスト防護対策は必須ではありませんが、安易に作業できるという意味ではありません。リスクが低くても、リノベーション工事でレベル3のアスベストを扱うときは、健康に配慮した作業環境の確立が求められます。
◎アスベストを取り扱うリノベーション工事に必要な資格

人間の健康に影響を与える危険性を含むアスベストをリノベーション工事で取り扱う際は、石綿作業主任者の資格を取得した人物が必要です。石綿作業主任者は国家資格のひとつで、2006年にアスベストが含まれる(0.1%以上)ものを造ったり、使用したりする行為が完全に禁止されたタイミングで作られました。古い建物をリノベーションするときの調査でアスベストが検出されたとき、石綿作業主任者が不在だとリノベーション工事が進められません。
石綿作業主任者がリノベーション工事のプロセスで管理する業務は多岐にわたり、リノベーション現場の安全を守るには欠かせない存在です。建築物にアスベストを使った建材があると想定される建物の場合、石綿作業主任者はアスベストの事前調査を行い、アスベスト使用の有無や現在の状態を確認します。人体に悪影響を及ぼすアスベストをリノベーション工事の現場でトラブルなく安全に扱えるよう、法令を遵守した作業方法と手順を石綿作業主任者は決定します。また、作業員の健康と周囲の環境の安全維持を目的に、換気設備の点検やアスベスト防護用の備品の適切な管理も非情に重要です。実際にアスベストを除去する作業員の工程管理や指導も、アスベストを扱うリノベーション工事における石綿作業主任者の重要な仕事です。
リノベーション工事が完了した後も、石綿作業主任者の仕事は続きます。排出したアスベストが法令にのっとって廃棄されたか確認し、行政へ報告をして石綿作業主任者の業務は終了します。アスベストが含まれた建物をリノベーションし、法令を守りながら安全にリノベーション工事を完結させるには、石綿作業主任者の存在が不可欠です。
◎アスベストが含まれる建物をリノベーションするときの確認点

アスベストが含まれる建物のリノベーションを検討するときには、事前に把握しておきたいチェックポイントが複数あります。アスベストの使用禁止から時間が経過しており忘れがちですが、リノベーションしたい建物が禁止される前の場合は、確認しておきましょう。
アスベストが含まれる可能性がある建物をリノベーションする際は、あらかじめ余裕をもたせた工事期間の設定と予算の確保が重要です。アスベストが発見された場合、アスベストの除去や封じ込め工法を用いた作業などが必須のため、アスベストがない建物のリノベーションよりも、工期が長くなる可能性があります。また、アスベスト除去に要する費用は発生し、通常、リノベーション工事の発注者が負担します。調査の規模やアスベスト除去の範囲によって費用は変動しますが、リノベーションの予算の中に、アスベスト除去の費用の追加は不可欠です。
アスベストが含まれる建物をリノベーションする際、発注者にもいくつかの義務が発生します。たとえば、アスベスト調査の実施や、必要に応じた行政への報告に協力する義務があります。業者がアスベストの有無の調査を目的に、図面の提出や情報を求めた際は、手持ちの資料や情報の提出が求められます。アスベスト除去の作業費用がリノベーション費用に入るように、アスベスト調査費用もトータルの費用に含められるため、費用の捻出が必要です。古い建物のリノベーションとアスベストは、切っても切れない関係です。適切に対処しないと、気付かぬうちに法令違反に該当する可能性があります。アスベストが含まれる恐れがある場合は、業者と連携して適切に対応することが不可欠です。
◎リノベーション工事でアスベスト除去を実施した当社の施工事例
アスベストの使用が完全に禁止される前の建物をリノベーションするときは、アスベストの有無を確認する事前調査が求められます。アスベストが発見された場合は、法令を遵守し、人間の健康を守れるよう、アスベストの除去や封じ込め作業が必要です。
〇東京港区大門浜松町マンション

港区にある建設から年数が経過したマンションにて、アスベスト調査と対処を行ったリノベーション工事に参画しました。古い建物だったため、法令にのっとりアスベスト調査を実施した結果、アスベストの使用が判明しました。また、解体工事をともなうリノベーション計画と発じん性の高さに鑑み、石綿作業主任者は、アスベストが飛散しないよう細心の注意を払いながら作業計画を作成しています。除去作業を実際に行う現場では、厳格に作業員や工程を管理して、マンションに使用されていたアスベストをトラブルなく除去しました。アスベストの調査から除去作業まで、マンションのオーナー様にご協力いただき、無事にリノベーション工事は終了しました。
◎まとめ
アスベストが含まれている可能性のある建物をリノベーションし、法令にのっとった運用をするには、念入りな調査と発見時は除去や囲い込みなど対処が必要です。アスベストは、健康に影響を与える物質として、現在は取り扱いが禁止されています。アスベスト対応がスムーズに進むよう、業者との協力体制も大切です。アスベストがリノベーション工事で検出されたときの必要な対応にご興味がある方は、当社までお気軽にご相談ください。
