コラム
ビルリノベーションなど大きな改修計画における構造設計者の業務内容
ビルのリノベーションなど、大きな改修計画の請負において構造設計は重要です。既存の建物の構造を適切に評価し、必要に応じて補強方法を計画することで、建物をより長持ちさせるリノベーションが実現します。この記事では、ビルのリノベーションなど大きな改修計画における構造設計の重要性について詳しくお伝えするとともに、構造設計者の具体的な業務内容についてご紹介します。
◎ビルリノベーションにおける構造設計の重要性
ビルのリノベーションをはじめとした大きな改修計画では、構造設計者をプロジェクトに含めて進行する事例が多くあります。リノベーションは既存の建物に手を加えるため、新築とは異なる複雑な要素が生じます。そういった事例に対応するには、高度な専門知識を持った構造設計者が欠かせません。まず建物の安全性を確保するうえで、構造設計者は中心的な役割を担います。既存の建物は、長年にわたる使用や自然災害、経年劣化により、見えないところで構造的な問題が発生していることがあります。たとえば、壁や床にひびが入っていたり、柱の強度が低下していたりするケースも珍しくありません。こうした問題を見逃してリノベーションを進めると、後々大きなトラブルが発生する恐れがあります。
構造設計者は、建物の構造的な安全性を診断し、必要に応じて補強計画を立てることで入居者の安全を確保します。とくに地震の多い国である日本では、耐震性の向上を図るリノベーションが求められるため、構造設計者の役割は一層重要です。また、構造設計者はコスト管理にも貢献します。過剰な材料を使わず、必要最低限で最大の効果を引き出す設計を行えば、工事にかかるコストをおさえることができるのです。たとえば、補強工事を検討する際に、建物全体を補強するのではなく、部分的に強度を高めるだけで十分な場合があります。
材料費や工事費が高騰している昨今、コスト効率の高いリノベーションは、施主にとって大きなメリットです。さらに、施主が求めるリノベーション後の間取りやデザインを実現するためにも、構造設計者は不可欠な存在です。「このような間取りやデザインにしたい」という要望を実際に形にする際、リノベーションでは構造上の制約が発生することがあります。しかし、構造設計者はその制約をクリアするための最適な方法を提案し、デザインと安全性のバランスを取ることに努めます。
リノベーションは、施主の理想の空間を実現する大きなプロジェクトです。その成功には、デザインやコストはもちろん、安全性や耐久性といった長期的な視点も考慮しなければなりません。構造設計者は、こうした要素全てをバランスよく取り入れ、施主の理想を現実のものとするために不可欠な存在です。構造設計者の専門知識と技術によって、リノベーションはより安全で、コスト効率が高く、快適な空間を作り上げることができるのです。
◎構造設計者が行う業務内容
リノベーションにおける構造設計者の業務は、既存の建物の安全性と耐久性を確保しつつ、新しい間取りに対応する構造設計を行うことです。既存の建物に手を加えるので、新築とは異なりさまざまな制約や課題が生じることが多く、それらに柔軟に対応するための専門的な知識が求められます。
〇現地調査
まず構造設計者は依頼主と打ち合わせを行い、依頼主の要望に添ったリノベーションが実現可能かどうか検討するため、建物の現地調査へ向かいます。新築時の図面が残っていたとしても、築古の場合、新築時とは建物の状況が変化している場合があります。調査内容は、建物の採寸や給排水管などの設備状況チェックなど多岐にわたります。エレベーターを新設するために一部床の開口を計画したり、窓を新設するために壁の開口を計画したりする際に、構造にかかわる壁を撤去してしまうなど建物全体の安全性に問題が起きないかといった判断を行うのも構造設計者です。
〇補強工事の検討
現状の建物の柱や梁など構造部材の劣化状況を調査し、補強工事を行うことを検討します。必要に応じて、地震時の安全性に問題がないか判断する耐震診断を行います。リノベーションは建物の基礎や柱などの構造部分を残して内装部分を取り外すので、併せて耐震診断や耐震補強を行いやすいタイミングです。構造設計者は、耐震診断の結果によっては補強計画を策定します。耐震補強の工法には、新たな鉄骨ブレースや鉄筋コンクリート壁を増設するもの、基礎を打ち増ししたりひび割れを補強したりして強度を上げるもの、柱と梁などの接合部に耐震金具を設置するものなどがあります。
〇構造計画や構造図の作成
構造計画は、建物の現地調査結果や耐震診断結果などをもとに、その骨組みの形成、最適な部材配置、基礎構造などを選択するものです。構造計画にもとづいて、建物の骨組みとなる柱や梁などの部材や寸法、施工手順などを詳細に記載した構造図も作成します。構造計画の作成によってリノベーションの大筋が決定するので、ここで万一誤りが生じると、以降のプロジェクト進行の全てに悪影響を及ぼすでしょう。つまり構造計画の作成は、リノベーションにおいて最も重要なプロセスです。構造設計者の高度な技術が発揮され、その重要性が証明される場面といえます。
〇構造計算
構造計算により、リノベーション後の荷重条件や躯体の耐久性を検証します。構造計算とは、固定荷重・積載荷重・積雪荷重・風荷重・地震荷重などに対して、建物がどのように変形し、またどのような応力が発生するのかを計算することです。構造計算には定められた計算方法があるものの、荷重の算定に対する考え方などが構造設計者によって異なる場合があるため、画一的な結果になるわけではありません。構造設計は、構造設計者の技術や経験値によって変わる側面があるのです。
〇建築確認申請
リノベーションの際には、現行の建築基準法に従って構造設計を行うことが不可欠です。構造設計者は法令遵守のため、あらかじめ関連法規や条例を把握したうえで構造計画を作成します。そして自治体や指定確認検査機関への建築確認申請を依頼主に代わって行い、当該リノベーションの適合性を証明します。この申請には、構造設計一級建築士の資格が必要です。構造設計一級建築士は、一級建築士の上位資格にあたるもので、2005年の耐震偽装問題をきっかけに新設されました。一定規模以上の建物の構造設計においては、構造設計一級建築士が自ら構造設計するか、ほかの一級建築士の構造設計を構造設計一級建築士が確認しなければ、建築確認申請が受理されないと改正建築士法で定められています。
〇工事監理
無事に建築確認申請が受理された後は、構造設計業務そのものとは少し離れて工事監理業務に移行します。工事監理は、構造設計図の通りに工事が進んでいるかを確認する業務です。施工性向上のための微調整を行い、工事の進行中に起こるさまざまな変更要因にも対応します。たとえば、工事を開始してはじめて柱や梁が腐っていたり、地中埋設物があることが判明したりするなど、想定外の出来事が起きる場合があります。そのような事態に対し、構造設計者の臨機応変な対処が必要となるのです。リノベーション工事が終了した後も、一定の期間は構造設計者がアフターケアとして建物の状態を確認し、問題が発生した際は対応することがあります。
◎構造設計で注意すべきリスク
リノベーションにおける構造設計では、安全と法的な観点からのリスクに注意する必要があります。まず、安全性の観点からは、地震に対する耐震性の強化が重要です。必要に応じて、構造設計者が耐震補強の施工方法の提案や計画を行うことが求められます。また、リノベーションでは建物の間取り変更によって荷重条件が変わることがあり、この場合は新たな荷重条件に適応した構造設計を行います。
非常口や階段の耐震性・耐火性はもちろん、非常時に避難経路が確保されるような構造設計になっているか改めて考慮することも必要です。さらに、築古のビルには天井の落下や外壁の剥離といった事故のリスクが存在する場合があります。リノベーションの際は、構造設計によって事故の可能性を見極めて補強や修繕を計画すると、こうした潜在的なリスクに備えることが可能です。
法律的なリスクについては、建築基準法に定められた建物の耐震性や耐火性、構造強度に関する基準が、新築だけではなくリノベーションを行う建物にも適用されることがあげられます。1981年には、建築基準法の耐震基準が大きく改正されました。改正以前に建てられたものは現在の基準を満たしていない場合が多く、既存不適格建築物と呼ばれる現行基準に適合していない建物が問題視される事例があります。そのため、リノベーション時には現在の耐震基準に適合しているか改めて確認を行うことが必要です。また建築基準法では、リノベーションの際に建物の主要構造部分の防火性能を確保することも義務付けられています。このようにリノベーションにより構造を変更する際には、現行の基準に適合させる義務が生じることが多く、その場合、構造設計が非常に重要な役割を果たします。法律にもとづかない不適切な設計は、万が一の事故発生時に施主の責任が問われる可能性もあります。
◎構造設計からプロジェクトに参加した当社の施工事例
港区東麻布にある築年数が経過したビル1棟のフルリノベーション工事の事例をご紹介します。耐震診断と補強工事を実施し、エレベーターの新設やドライエリアの設置など、大規模な構造変更を含むフルリノベーションを行いました。ビルの基礎から外装、内装、設備工事に至るまで一貫して対応することで、資産価値を最大限に引き上げました。とくに、地下の閉塞感を解消するために外壁を開口し、明るい空間へと生まれ変わらせるなど、機能性とデザインを両立した工事が高い評価を得ています。アパレル系の企業さまが、1棟使いとして入居されました。
〇東京港区東麻布ビル
港区東麻布にある築年数が経過したビル1棟のフルリノベーション工事の事例をご紹介します。耐震診断と補強工事を実施し、エレベーターの新設やドライエリアの設置など、大規模な構造変更を含むフルリノベーションを行いました。ビルの基礎から外装、内装、設備工事に至るまで一貫して対応することで、資産価値を最大限に引き上げました。とくに、地下の閉塞感を解消するために外壁を開口し、明るい空間へと生まれ変わらせるなど、機能性とデザインを両立した工事が高い評価を得ています。アパレル系の企業さまが、1棟使いとして入居されました。
◎まとめ
ビルのリノベーションにおいて、構造設計者の業務は建物の安全性や耐久性を確保するために不可欠です。構造設計者は既存建物の調査や補強計画を行い、現行の法的基準に適合させることで、入居者の安全を守りながらコスト効率の高い設計を実現します。施主の要望を反映しつつ最適な構造設計を提案し、プロジェクトの成功を支える専門家として重要です。築古ビルの再生や機能向上をお考えの際は、当社までお気軽にご相談ください。